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最高裁判所第二小法廷 昭和44年(あ)726号 決定

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人本人の上告趣意第一点は、原審が無能力・不誠実な弁護士を国選弁護人に選任したのが、憲法三七条三項に違反するというのである。

しかし、弁護士法は、弁護人となるのにふさわしい能力のある者に弁護士としての資格を与えているのであるから、国選弁護人は、明らかに不適当と認められる特段の事情のないかぎり、裁判所の所在地にある弁護士の中からなにびとかを選任すれば足りるのであって、各選任ごとにその弁護士の能力や誠実さを調査する責務を負担するものとは解されない(昭和二八年一二月一五日第三小法廷判決、裁判集八九号三一七頁参照)。そして、所論弁護士について、右のような特段の事情の存在を疑うべき資料はないから、本件国選弁護人の選任には違法はなく、したがって、所論は前提を欠き、上告適法の理由にあたらない。

同第二点は、憲法三七条一項違反をいうが、実質は単なる法令違反の主張であって、上告適法の理由にあたらない。

職権によって調査すると、被告人は、控訴趣意書差出期間内に、みずから適法な控訴趣意書を差し出すとともに、原審にあてて控訴趣意書取下申立書と題する書面を提出し、国選弁護人長屋潤が差し出した控訴趣意を撤回する旨の意思を表示していること、および右長屋潤の死亡により新たに選任された国選弁護人原瓊城が、原審第一回公判期日に右長屋潤名義および被告人名義の各控訴趣意に基いて控訴趣意を陳述したので、被告人が、その後の公判期日、ことに原審第四回公判期日において、重ねて右長屋潤の差し出した控訴趣意を撤回する旨陳述していることが認められる。ところで、控訴の申立とその理由の差出とは一体不可分の関係にあるものであり(昭和二九年七月七日大法廷判決、刑集八巻七号一〇五二頁参照)、被告人は、控訴の申立およびその取下をする権限を有し、弁護人が被告人のために申したてた控訴の取下をすることもできるものであるから、その理由である控訴趣意についても、被告人にこれが差出および撤回の権限があり、弁護人が被告人のために差し出した控訴趣意を撤回することもできるものと解するのが相当である。そうすると、前記長屋潤の差し出した控訴趣意は、適法に撤回されたものというべきである。しかるに原審は、右撤回を認めることなく、あえて右控訴趣意について判断をしているのであるから、控訴趣意の撤回に関する法令の解釈を誤ったものといわざるをえない。

しかし、原審は、右控訴趣意について、理由がないとしているのであるから、右法令違反は、判決に影響を及ぼすものではない。

同第三点は、憲法三七条二項違反をいい、同第四点は、同法三八条二項違反をいうが、いずれも実質は単なる法令違反の主張であって、上告適法の理由にあたらない。

弁護人浜口武人の上告趣意は、単なる法令違反の主張であって、上告適法の理由にあたらない。

また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項本文により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)

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